第48章 開幕のベルを鳴らせ
扉の向こうは長い廊下で足音を消してしまう絨毯を踏みながら進んでいく。
一人は主催者。予想以上の成功が今後の自分の評価につながるのが嬉しいのか、この綱渡りのような空気の中ご機嫌でペラペラと薄っぺらい言葉を連ねている。
それにディアナは愛想よく返し主催者の口がよく回るのを繰返している。ティアナを中心に左右はディアナと恐らくディアナの護衛がついている。
正直ティアナはすぐにでも逃げ出してしまいたいほど恐怖を感じていた。何もなく解放してくれるのが一番だがそんなことはないだろう。いざと言うときには対人格闘を駆使してと思ったが側の男は見ただけでも鍛えているのがわかる。足にハンデがある自分には無理だと嫌でもわかる。
エルヴィン団長との話しではディアナは自分に気づけば必ず連れ出そうとするだろう、抵抗せず相手の言う通りにして助けがくるのを待てとのことだがディアナには権力を持ったパトロンがいる。調査兵団が直接交渉などは無理。では?
「アーリア、久しぶりで疲れたのかしら?積もる話しもあるし今夜は付き合ってもらうわね」
事情を知らないなら、嬉しそうに旧友との親交を楽しみにしているように見えるがティアナは別の響きを感じさせる。
無言を貫いているのにディアナの機嫌は変わらない。
会場の裏口に止められた馬車を見て、ここでなんとか逃げなければという感情とエルヴィンの言葉を守るべきか二つに揺れる。
「今夜はね、とっておきの夜なの。あなたに会いたい人は私だけじゃないのよ?」
まずい。ディアナだけでも厄介なのに他もいるとなると……
ティアナが逃げられないようにか一番に馬車に乗るよう促される。逃げないように馬車の扉は開けられており、先頭に立たされている。躊躇していると傍目には優しく見えるだろうが背中に当てられた手には力が込められ後押ししてくる。
(いいじゃない。決着をつけるんでしょ)
怯える心を叱咤し馬車に乗り込む。
続いて護衛の男が扉近くに、ディアナは主催者に別れの挨拶をして護衛の男が馬車内から伸ばした手を掴んでティアナの隣に座る。
馭者は乗り込んだのを確認し扉を閉める。
ドクンドクンと速まる鼓動が体中に血を駆け巡らせている。
「そんなに警戒しなくてもいいわよ」
ディアナの言葉に無言をもってティアナは答えた。