第48章 開幕のベルを鳴らせ
ティアナを見なくてもすぐにわかった。
この女だ。今までティアナやティアナの周りを傷つけてきた。
スッとエルヴィンがティアナの隣に並び愛想よく女の相手をしている。その間も女の粘つくような視線はティアナに向けられている。
それとなくティアナの反対側にいくと中央にいるティアナを男二人で挟んでいる格好になっている。
「あら、こちらの方、とても古い友人に似てるわ」
相手も気づいていることを隠す気はサラサラないらしい。
「そうですか。世界にはよく似た人間が三人はいると言いますね」
動じた様子も無くティアナは会話を続けていく。
頷きながらティアナの名を訊ねてきては様子を伺いながらエリーやハンジも紹介してほしい、これからもよろしくといった定形な会話が終わり立ち去っていく。
エリーがいるため肩を抱いてやることもできないのが不甲斐なく感じながらそっとティアナの横顔を見ると凛としたティアナがいる。
堂々と優雅な雰囲気すら醸し出し恐れも何も見えない。
今のティアナが俺の知っているティアナなのか、わからなくなってくる。
急にエルヴィンがいきなり飲み物が欲しいと言い出した。
そこここにボーイがいて銀盆には飲み物が乗って提供されているのにバーカウンターまで行って来いと俺とティアナに言いつける。
一言二言、文句を垂らし二人でその場から離れる。
庭に出てティアナの手に触れると細かく震えており、次第に止まらないのか震えが大きくなる。
ティアナの体を引き寄せて体温を分け合う。耳元でよくやった、大丈夫だと繰返し囁いた。少し落ち着いてきたのかティアナから俺の胸を押し返しにこりと笑った。そこにはさっきまでの堂々と渡り合うティアナではなく俺のティアナで自然な笑顔だった。
「ごめん、突然だったからちょっとびっくりしたから」
「謝るな、何も悪いことはしていないだろう。気にする事はないだろ」
いきなり自分の頬を両手で軽く叩いてよし!と気合をいれたティアナが、「エルヴィン団長の飲み物取りに行かなきゃね」
と先に会場に戻ろうとするティアナの腕を掴んで驚いて振り向くティアナに触れるだけのキスをした。