第45章 独りじゃない
すべての書類が片付いたのは帰還予定日の2日前だった。ハンジさんに任された仕事は残った少ない班員だけでなんとかなったし、これからがもっと忙しくなるんだからと言われても負担をかけたのは事実。頭を下げると「それよりも今度甘いもんでも差し入れしてくれるとうれしいなぁ」と逆に気をつかわせてしまった。落ち着いたら人気の焼き菓子を差し入れますね。の言葉でニカッと約束だよ。と返してくれた。その後はハンジ班の仕事をしていると事務室長がハンジ班に謝罪に来たがハンジ班らしく笑って助け合いは当たり前だからとお詫びの品を後日…といい始めると手を大きく横に振って大丈夫だから気を遣うことない。と丸め込んだ。
仮眠時間はあったが、どうしても壁外に行ったリヴァイをはじめ皆が心配で寝つきが悪い。それは私だけではなく留守番で残っている兵士も隈ができている。
今も命がけで戦っている仲間にどこか引け目を感じつつも心配するしかない日々。待っているものの心にも暗い影が落ちて荒んだ雰囲気が流れ始めた頃だった。
「帰還の鐘だ!!」
帰還の一報を聞いて動けるものはすぐに動いた。
壁内の地獄はここから始める。
帰還から2週間が経過した。夜中に聞こえる嗚咽や悲鳴は段々と少なくなってきて表面上は落ち着いてきている。
でも幹部や班長はそれぞれが遺族の元に向かい遺品を渡す際に詰られたり、哀しみ、憎しみにさらされながら気丈に振る舞っている。それがティアナには痛々しく遣る瀬無い思いでいっぱいになる。
今、自分にできることは気づかれないように片手で食べられる軽食や古くから伝わる安静作用が期待できるハーブティーを偶然居合わせた人に頼まれたから持って行ってほしい。と頼むくらいだ。
事務に戻ったティアナ達は帰還後は中央に出す書類の一部、傷ついた兵士たちの入院手続き、遺族への細やかな弔慰金の手配。気持ちがすり減る仕事をしている。
前線に出ることない自分達でさえこうなのだ。
壁を越えていった仲間の苦しみを考えれば時折憎々し気な視線も仕方ない。彼らは目の前で理不尽に簡単に命を奪われた仲間を見てきたんだ。自身が前線に出たのはいつだっただろう。とても昔のような気がする。
「ティアナさん、聞いているのっ!」
研のある声のエリーさんが傍で半ば怒鳴っていた。