第45章 独りじゃない
出立当日。高揚と恐れと強い思いを込めて兵士はそれぞれの場所にいる。
不安で仕方ない心を何とか笑顔に変えた。
「おい、俺たちは死にいくわけじゃねえよ。見送りするならしけた面すんじゃねえよ」
準備は済んだのか、背後から突然声がかかる。
リヴァイだけではなく、ハンジさんもミケさんもナナバさんもこれから壁外に行くとは思えないほど力を抜いているように見える。
だけどティアナは知っている。彼らこそその内心を見透かされるわけにはいかない。例えどんなに不安でも残酷なだとしても。だから。笑え。不安は伝染する。
「ご武運を」
どんなに心配でもこれ以上は言えない。
手を挙げて答えるミケさんとナナバさん。巨人捕獲話に熱を入れるハンジさんにいつも通りのリヴァイ。
「すぐ戻る。お前は俺の部屋でも掃除して待ってろ」
茶化すハンジさんにいつものように蹴りをおみまいしている。出立時刻がいよいよ迫り幹部組も持ち場につく。これから巨人の世界に向かう調査兵団に沿道の人々は悲壮であったり、励ましであったり、罵声も一緒くたにかけられる。その中を背を伸ばし進んでいく。
エルヴィンの鼓舞する掛け声を合図に駆けていく。
見送りを済ませ兵舎に戻ると留守番の兵士、療養している兵士、壁外に出ない事務官。戦いの場にいられなくとも願いは同じ。日常を何とか繋いで帰還を待つ。
ティアナはハンジに研究している薬品の変化、データの記録などを残っているハンジ班の担当者とともに任されている。時折ボーっとしていると背中を優しく叩かれハッと気づく。
ようやく集中できるようになってきた時にカレンが苦い顔でやってきた。
「あー。仕事の邪魔してごめん。ちょっとだけ手を貸して」
どうしたのかと問うと、帰還した時に必要になる近隣の医師への要請や駐屯兵団への依頼書など。本来ならすでに用意済で、いつでも出せる書類にダメ出しが出ている為、猫の手も借りたい状況とのこと。
「自分だけの判断では動けな…」
「行っておいで!こっちはなんとかなる」
逡巡するティアナにハンジ班の担当者はそう言ってカレンともども研究室から追い出した。
詳しい事情を聞くとどうやらエリーさんに振り回されているとのこと。
事務責任者の抗議もどこ吹く風で指示を出しているらしい。
事務が滞ると帰還の時に大変なことになる。
心の中で深いため息を吐いた。
