第44章 新しい仕事と出会いたくない出会い
主催者の紹介に応じて会場の奥、二階への階段の広めの踊り場に控えめな笑みを湛えた女はこの場の誰よりも華やかな衣装を纏い注目を浴びているが緊張は見えずむしろ堂々として場慣れしている。
鈴を転がすような声で簡単に挨拶をした女は今回の演奏のパートナーを紹介し終えると徐々に会場の照明を暗くなっていく。それとともに2階へ上がるための1階のデッドスペースに何人かがそれぞれの楽器から音を奏で始め、華やかな衣装の女がその歌声を披露し始めると今までの騒めきは鳴りをひそめた。
(しまった)笑みを浮かべたままエルヴィンは内心では毒づいていた。彼女__ディアナがここに来るとは想定していなかった。ディアナは良くも悪くもシーナや王都以外のステージに立ったことはななく、乞われても素気無いのは有名だ。
それなのに。さりげなくティアナを探すがほのかな明かりの中では困難で下手に動き回るのも目立ってしまう。
うまくティアナが気づいてくれればいいんだが。
演奏も歌声も聞き入ることなく視線を緩やかに動かしているところにスッと誰かが隣に立った。
「話がだいぶ違うな。あいつはもうここにはいない。戻ったら覚えてろ」
抑えてはいるが怒りに満ちたリヴァイにエルヴィンはホッとするとともに戻った後の状況が浮かんで若干指先が冷たくなった。
話している内容は聞き取れないが様子がおかしい上官二人をエリーは視線の端で捉えていた。
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無事、兵舎に戻ったティアナにモブリットは多くを問わず疲れたね。とだけ言ってお互い私室に戻った。
髪にもドレスにもまとわりつく香水と煙草の匂いを落としたくてティアナは私室でドレスから普段着に着替えて湯のない浴場の水を頭からかぶった。冷たい水で夜会の匂いを愛用の石鹸で落とす。浴場から出て温かい飲み物で落ち着こうと食堂に行くと先客のモブリットがいた。できれば誰にも会いたくはないが手を挙げて合図するモブリットを無視することもできずにお茶を淹れますねと用意をして向かいに座る。
さて、今夜のことを聞かれるかと構えているとモブリットは不自然なティアナについて何も聞かず分隊長が暴走していないかと話のネタにしている。
何も聞かないモブリットに乗ってありがたくハンジ達を話題にした。
飲み物がなくなるとお休みと挨拶を交わしてそれぞれの私室に戻った。
