第44章 新しい仕事と出会いたくない出会い
自分が目立ちたくない時にいるだろう箇所に目を配る。隅過ぎず、人がそこそこいる場所。
モブリットの姿を見つけ、ティアナの姿も確認した。
(あの野郎、近づきすぎだろうが。躾が足りなかったか)
物騒なことが浮かぶ中、隣で歓談している二人に既視感を覚える。確か…ティアナの知り合いの…
側にいるがお互い知り合いではない雰囲気を出している。
目で合図することなく離れていく二組。おかしい。
特にティアナが警戒するやつはいない、とエルヴィンは言っていた。だが、今ティアナとモブリットは会場から出るようにエントランスへ向かっている。
すぐにどうしたのか、何があったか聞きたいのにうるさい商人は商売仲間を呼び止め更に話をするつもりだ。
「ハンジ、少し離れる」耳打ちするとハンジは器用に笑いながら剣呑な視線を送る。
「すぐに戻る。その間、笑ってろ」
商人たちに手洗いに行くと断ってからエントランスへ行くとティアナもモブリットもいない。
(遅かったか)内心穏やかとは言えないがモブリットなら大抵の事は対処できるはずだ。
クルリと会場へ戻ろうとすると受付の男が呼び止める。
「調査兵団の方にメッセージを預かっております」
そのメッセージはわざわざ封筒に、封をしている。
「手間をかけた」封筒を受け取ると人気のない場所で開く。
そこには先に戻る。時期に団長もその理由に気づくはずです。とだけのメッセージだった。どういうことか。
「ちっ、クソが」吐き捨てるように悪態が漏れる。
時期に。ということは現在はエルヴィンもわからない事態ということか。
モヤモヤと苛立ちがする。
もうティアナ達はここから去っている。追っていきたいがそうもいかない。早くこの茶番が終わってほしいとハンジのもとに戻った。先程のやつらはよそに行ったのか、ハンジは飲み物を取りに行っていたのか、手にはワイングラスをリヴァイには非難の視線を送っている。
「いくらなんでも遅いじゃないか」
ハンジの恨み言を流し、この会場で愛想を振りまいているはずのエルヴィンはどこかを訊ねるも「この人混みのなかでわかるはずないだろ、それより仕事してくれよ」
チーンと一段高い場所から主催者はグラスの淵を何度かスプーンで叩き注目を集める。
今夜は王都でも評判の歌姫が天上の歌を披露します!」
