第43章 目の前にある過去
「憲兵にディアナが犯人だと訴えて、コーネリアス様も尽力してくれたけど揉み消された。しかもコーネリアス様自身の立場さえ危うくなった。もうわたしに関わることで誰かが傷つくのは耐えられなかった。これ以上、手を差し伸べてくれる人たちを巻き添えにすることはできなかった。」
貴族階級には疎いが、侯爵の地位をもってしても太刀打ち出来ない相手。なるほど『相手が悪かった』とティアナがそういうのもわかる気がしたが地位と権力を振りかざす碌でもない奴らに反吐が出る。
「あと少しだけ付き合ってね」
また冷えてしまった紅茶をティアナは飲み、リヴァイもそうした。冷めてはいるが、風味は残って飲めないわけではないが強い酒を喉に落としたい気分だ。
コトリとカップをソーサーに置いてからティアナはリヴァイを見つめた。
「時間は残されていない、アーリヤは消えなきゃいけない。楽団もディアナを刺激さえしなければ問題はない。後はわたしの身の振り方だけ。そもそも楽団からは時期をみて離れてティアナ・ディーツに戻るつもりだった」
「アーリヤは恵まれていたし実際そうだった。だけど貴族の醜い姿と一人で歩くこともできない不自由さとわたしが存在するだけで周りを不幸にするのは我慢できない」
「でも、シーナから離れるのに一悶着があったの。ディート、コーネリアス様の跡継ぎなんだけど捕まって軟禁されちゃった。ディートはシーナから離れても自分から離れるのは許せなかったみたい。コーネリアス様が気付いてこっそり逃がしてくれて、ここにいるの」
「自由になったってんならローゼで民間人として生きりゃいいものの、なんで明日もどうかの兵士になった?」
「それは、調査兵団の出立の時と帰還をみたから。行きは希望、帰還は…酷かった。それでも生命の危険をさらしてでも外へ向かう姿に衝撃と自由をみたの」
「自由どころか死に方すら選べねえ地獄だろうが」
「そうね、リヴァイの言う通り。その地獄の向こうになにがあるのか知りたくなった、その道が地獄だとしても」
思わず俺は鼻で笑った。ティアナも笑った。
「調査兵団は変人ぞろいだとよく言われるがバカも多いな」
「それが調査兵団だもの」
瞼を腫らしたティアナはまさしく変人のバカな調査兵だ。