第43章 目の前にある過去
「脅迫状はこけ脅しではなく本気でわたし達を潰そうとしているのは十分身に染みた。そしてここまでする犯人も目星はついていたの。…相手が悪かったんだ」
話始めてからずっと苦しそうで悲しそうなティアナだが、それに限界はないのか、どんどん声も震え顔色も悪い。
肩を優しく抱きしめてから、すっかり冷めた紅茶を淹れなおす、と席を立つと不安そうなティアナの頭を撫でた。
過去のティアナを俺は助けてやれない。今なら俺は絶対に守るし、苦しみも悲しみも一緒に背負いたい。吐き出して欲しい。それとは反対に思い出すのが苦痛なら傷口を開くのは酷だとも思う。だが一度、俺は拒絶した。今回も同じ轍を踏めばティアナはもう話してはくれないだろう。
覚悟していたのに話し始めるとあの時の感情が押し寄せて胸の奥がずきずきと痛む。当時よりは痛みは治まっていると勘違いをしていた。だって痛みは変わらない。もし感情が見れるならきっと血を流していて、わたしの手も血に濡れている。聞こえないように細く息を逃がす。何度か繰り返して気分が落ち着かせる。
あれは過去のこと。アーリヤはもういない。あの人達はみんなに危害は加えない。フルフルと首を振って感情の渦に飲み込まれないよう意識する。
淹れなおした紅茶をもっていくと背中からでもわかる緊張と怯え。こんなにティアナを苦しめた奴らをすぐに削ぎにいきたい。怒りを堪えてティアナのもとに戻る。
「さっきとは違う茶葉にした。リンゴの味がついていて飲みやすいらしい」
甘いリンゴと紅茶の香りが重なって飲んでみると意外にうまい。
ほうっと一息ついてティアナは微かに笑う。
「この紅茶は初めて。とても飲みやすくておいしい」
半分くらい飲んだ時にティアナは俺を見つめる。続きを話してもいいか、タイミングを計っている。
「さっきの相手が悪かった。ってのはどういう相手だったんだ」
「権力者を得た友人だった。彼女はきっとわたしが目障りでわたしが苦しむのが何かをよくわかってた」
彼女?もしかしてあの悪夢は。首をかしげてティアナを促す。
「ディアナ。一緒に歌った仲間。彼女はなんでも一番が好きだった」