第42章 選択する勇気
ハーミット班長の回診が終わって、介助の方からは隣の医務室へ必要なものをとってきますので、無理はしないでくださいね、と念を押されてしまった。
客観的に見ても厄介な患者である自分だが、もう我が儘や独断は止めておこう。夢は睡眠が浅い時に見るという。
見る夢がすべて幸せな夢ならいい。ひさびさに見たのは悪夢以外のなんでもなかった。
自分の夢で叫んで飛び起きたのも久しぶり。
詳しく聞いてこなかったけど、リヴァイはとても心配してる。
人の痛みに寄り添おうとするのと同時に誰かを無理やり聞き出す人ではないから、きっとわたしが話すまでは彼から聞いてくる可能性は低いとは思う、けど。
いつまでもリヴァイに隠し通せる過去でもない。
なによりも大好きなリヴァイにもう、隠し事はしたくない。
それでも話す勇気がまだ足りなくて自嘲する。
勇気も誠実もかけたわたしは気を反らしたくて、ハンジさんセレクト本のページを繰りながら読書をしていた。
午後休憩になると読書にも少々目が疲れて、睡魔が襲ってくる。
でも、今お昼寝したらお薬を飲んでも眠れなくなるかも知れない。
本当は適度な運動をするといいんだろうけど、先日の無謀な行いで以前よりもひどくなっている足はまだ動かせない。
う~んと病室で至れり尽くせりな生活を送っていながら悩んでいると軽いノックがされた。
ハンジさん?いや、ハンジさんはノックなんてしない。
「どうぞ」
入室を促すと遠慮がちに入ってきたのは、確か。ペトラさんだ。
昨夜、リヴァイが言っていた。
じゃ、彼女は五線譜紙を届けに来てくれたのだろう。
「お怪我の調子はどうですか?」
栗色の髪が揺れ、瞳は真っ直ぐでとても素敵な人だと一目でわかった。
「怪我は、そうですね。まだ痛みますが優秀な主治医がいますから」
「早く復帰できるといいですね!」
わたしはちゃんと笑えているだろうか?
彼女は本心から励ましてくれてる。なのに。
「あ、失礼しました、こちらリヴァイ兵長から頼まれていた物を持ってきました!この紙は特別な手紙用の便箋ですか?初めて見ました」
「手紙。うーん。手紙というより記号かなぁ」
答えになってない答えにも深入りはせず、明るくお大事になさってください!と敬礼してから病室からしっかりした足取りで出ていった。