第35章 845
地獄のような一日には似つかわしくないほどの茜色の空は美しく、残酷だった。
ティアナは駐屯兵からの配給を受け取らずに悪夢で飛び起きる人を落ち着かせ、痛みを訴える人には気休め程度の痛み止めを差出す。
一度、救護テントに戻らなければ。
少ない人手、猫の手も借りたいはずだ。
「ユンカー班長、戻りました。」
ティアナはすぐに動くが、ユンカーは沈痛な面持ちで、ティアナにだけ聞こえるように小声で告げた。
「いや、いい。少し休みなさい。ただでさえ犠牲者が多い。君まで倒れてはいけない。」
「班長のほうが休んでください。指示を頂ければ他の方と一緒に対応します、」
「ありがとう。でも、」
「少しで構いません。休んでください。」
逡巡した後にハーミットと話し、交代で医療者の休憩をとる手筈となった。
それ程に追い詰められていたのだ。
班長、看護師長を順に休ませ、残りの医療者で応急処置ともいえない応急処置を行っていく。
こうしてローゼ側に命からがら生き延びた人達の夜は絶えない涙と呻き声で過ぎていく。
それでもまだ、マシなのだ。
マリアに取り残された、多くの人を思えばトロスト区に辿り着いたのは、幸運だったのだ。
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「すぐに班の人数確認、速やかに報告せよ!」
トロスト区に無事壁上から明け方に到着するとエルヴィンは部下へ指示を出す。
負傷者は救護室へ。動けるものは明日に備えるため本部に待機。
もう、班の再編などと呑気な事は言っていられない。
まずはトロスト区にいる市民を少しでも安心させること、救護へ人を回すこと。
本来なら、団長であるキースに指示を仰ぐが肝心のキースがいない。
先程までは居たはずなのだが……
疑問に思うがそれどころでもなく、また被害はマリア内で、先のローゼ、シーナの壁は無事な事に(決して良いとはいえないが)一先ずの安堵を覚えた。
エルヴィンが指示を出している最中に殿を務めたミケ達も合流する。
彼らの働きで多くの人馬の損失は最小限に抑えられた。
だが、流石の精鋭達も疲労困憊だ。明日からの事を考えると少しでも休ませなければ。