第34章 再び異動と甘すぎる夜
よく医療隊は壁外調査前、壁外調査後は兵団で一番過酷と言われる。それを今、実感しているところだ。
10日後に予定されている壁外調査の前準備の為の忙しさと私自身の乏しい知識を詰めている。
「まず、全身状態を確認する。緊急を要しないなら、この色のタグ、反対に緊急ならば誰でもいいから呼びつけろ。また失血、手足が損傷している場合も直ぐに傷口の圧迫止血を行いつつ、医師を呼ぶ。」
全身状態の判断基準や患者への手当の優先順位、対応、などなどを叩き込む。
”基本は指示に従う” ”患者の状態確認” ”医師、もしくは医療者の手助け”これがメインではあるが、それも医療知識があってなせること。
付け焼き刃の知識でも全くないのとは天と地の差。
寝食もそこそこに分厚い本を夜遅くまで読み、少しでも知識をつける。
リヴァイとはあの甘い夜からあっていない。
医療隊にほぼ缶詰めになることはわかっていたのでリヴァイには落ち着くまで会えない。と伝えている。
リヴァイも理解していて、お互いの目の前に全力を尽くすと約束した。
「ーーその時は、」「こういったケースが多く搬入されるがー」「とにかく意識を可能な限り失わないようにーー」もちろん本だけでは足りない。ユンカー班長は少ない時間をやり繰りして、実際の経験を踏まえての実技や本だけでは知り得ない患者への対応などの経験を踏まえて教えてくれる。
「第一は戦場」とよく言われるが準備だけでも気力、体力を削がれる。
みんなの帰還後が第一医療隊の本当の戦場。
民間からも医療従事者が志願してくる。
一度でも志願して来た医療者の顔は険しく準備に取り掛かりベッドの確保、仮ではあるが、手術室の仮設置を指示している。
今回初めて第一医療隊に来た人をハーミット班長が呼び集める。
そこでは思いもしなかった現実があった。
「まず黒のタグは霊安室、緑は治療待機。医療室には入れるなよ。赤、黄に関してのみ早期治療を行う。また状態変化、もしくは治療不可で本人の意思、希望があれば、これを打つ。」
ハーミット班長の手の細い注射器がみんなに見えるようあげられる。
「これは安楽死の為の注射だ。君たちが持つことも打つこともないが、医療隊のものが打った時は決して騒ぐな、邪魔をするな。」
あまりにも想定していなかった現実に打ちのめされた。
