第29章 暴こうとした罪の罰を知らぬ振り
「音楽に身が入らなくなった。アーリヤとしての自分が嫌になった。」
「蝶よ、花よ、と持ち上げられて問題はないのに。絶対、壁の外に出るよりいい生活だし、羨ましいと思われてるのにね。知りたくなった。」
「何をだ。」
正直、うんざりだ。恵まれた女の戯言じゃねえか。
もう、どうでもいい。
俺の顔に出てしまったんだろう。
ティアナは黙り込んだ。
「続きは?」
うんざりはしてるが聞いた手前、促す。紅茶も冷めてる。
一瞬、目を開いてから顔を伏せてティアナの表情が見えなくなった。
「そんな馬鹿な子が、いたってだけ。今度は本名で興味本位に兵団にいるだけ。」
ティアナはもう、終わり。とばかりに立ち上がって会計に向かう。
振り返ったティアナはいつもの笑顔で帰ろっか。ね、つまんないでしょ。と笑う。そうかもな。そう返した。
俺は間違えた。勝手にティアナを暴こうとして中途半端にした。最後まで話せ、そう言った。だが、聞こうとしなかった。
宿舎に着いてからもギクシャクした空気は変わらず、俺とティアナの間には沈黙が横たわった。
俺は宿舎に戻り、ティアナは兵舎に戻る。
形ばかりの挨拶で、夜の約束もなく別れた。
(やっぱり、駄目だったな。言うことじゃなかった)
リヴァイと別れてから、ボンヤリと思いが浮かんだ。
もし、距離を置かれるなら仕方ない。
誰がどう私をみようと私は私。
青が橙と混じった夕暮れだった。
チッ。無意識に舌打ちが出る。結局俺はティアナの話したい事も聞いてねえし、俺が聞きたかった事も聞けてねえ。
でも、もういい。知らなくてもどうでもいい。
「わー!やめてください。お酒は要らない、要らない!」
ゲルガーさんがお酒を無理やり注ごうとするのをカップの口を抑えて阻止する。
「俺のコレクションから持ってきた美味い酒なんだ!物は試しに呑んでみろ!」
どうやらゲルガーさんのお友達がお酒を差し入れてくれたらしい。
明日から本格的な訓練に入るから。と景気づけに1杯やろうと、言い始めたのがこの防衛戦の始まりだ。
ナナバさんは意地悪な笑みで観戦中。
明日の訓練に差し障るのは目に見えてる。
ほんとにやめて欲しい。
「何を騒いでいるんだ」
エルヴィン分隊長の声が上から降ってきた。