第29章 暴こうとした罪の罰を知らぬ振り
まだ、始めのほうだけど続ける?とティアナは自分のカップを飲み干して空のカップにポットから注いだ。
「最後まで聞かせろ」
一呼吸置いてティアナは自分について続ける。
「そこからはあっという間だった。一つの家族がバラバラになった。叔母はもちろん自分の子を、叔父は私を引き取った。」
「そうなっちまうだろうな」
正直、一人捨てられ地下に落ちなくてよかったじゃねえか。
それを感じ取ったティアナは傷ついた顔をしたのを見て自分の言葉が傷を抉ったのがわかった。がティアナは話し出した
「叔父は仕事上、貴族とも懇意でその縁でフェルンバッハ侯爵とも知り合いだった。」
貴族、か。侯爵ともなるとティアナの叔父の顔の広さが伺える。
「侯爵には二人の男の子がいてね。歳の離れた兄のように慕ってた。長男のラファエル、次男のアーベル。ラファエルは社交的でアーベルは内向的な対照的な兄弟だった。でも、いつの間にかラファエルはいなくなった。後から分かったけど調査兵団に入団したんだって。誰にも言わずに。そして戦死した。エルヴィン分隊長とは付き合いがあったみたい。」
エルヴィンはこっから絡んできてんのか。
「フェルンバッハ家ではどう受け止めたかはわからないけど兵団に恨みとかはなくて、それまで通り資金援助もしているよ。」
「それで、お前はどう関わるんだ?」
「うん、フェルンバッハ侯は叔父のスポンサーでもあり私のスポンサーでもあった。もう叔父は自分より私を売り出してた。私は、芸名のアーリヤ・ベルンハルトでティアナ・ディーツは存在してなかった。それで良いと思ってたし、恵まれた日々だったよ。」
「恵まれたお前が調査兵団にいるのは何故だ」
「ローゼでのコンサート帰りに帰還した兵士たちに酷くショックを受けたの。父が調査兵だったのは知ってたから。余計に。自分とかけ離れてて。」
「そりゃそうだろうな」
「あれが一つの転機。衝撃でグルグル今の自分は何者か、なんて考え始めた。」
俺にはティアナがわからなくなってきた。
こいつがここまで隠す素性でもねえし、兵団に入る理由も弱い。
まだ、何かあるのか?