第23章 話したい
ティアナがいつもの場所に着き、ランタンを木箱の上に置いて、声を整える。寒いせいなのか高音域が出にくい。やっぱり喉を温めないと声も出しにくい。
「やっぱり戻ろうか、、」
「戻るのか」
ここで聞くことはないだろうと思っていたリヴァイの声に驚き周りを見渡す。ランタンの光が届かない場所で腕を組んで木に凭れかかってこちらを見ている。
「え、、なんで…」
「ほら。」
投げて寄こしたタンブラーを落とさないよう体勢を少し崩しながらもキャッチすると「飲め、少しは温まる、酒は香り付け程度だ」
昼間あんなに感情的に取り乱した相手が以前のように、当たり前のようにいる。
咄嗟に逆方向へ戻ろうと体を向けると後ろから「もう、歌ってくれねえのか」その言葉に体が動かなくなってしまう。
恐る恐るリヴァイに向き直ると組んでいた腕は解かれ真っ直ぐに立っている。
「なんで、ここに」
「聞きたくなった。俺と話すのは懲り懲りかもしれねえが…聞かせてくれねえか」
昼の刺々しさはなく、むしろ懇願。
最後なのかもしれない、そうじゃないかもしれない。
でも私にとって肝心なのはそこじゃなくて。
クイっと渡されたタンブラーに口をつける。紅茶とお酒が混じり飲むとじわりと暖かくなった。
喉を潤して再度喉を広げる。
さっきよりも声に張りが出てきた。
「何を歌えばいいの?」
「公演では歌わなかった歌」
「いいよ」
リヴァイの望み通り、公演会では歌わなかった歌を数曲歌う。歌うことで体の芯も温まってくる。
そして、リヴァイにとっても思い入れがある歌をラストに歌い終わった。
歌い終わった後は静かに立ち去ろうと思うのに動けない。だからといって何を言えばいいのかわからない。
じゃあね?さよなら?それとも?
俯いて立っていると動く気配を感じた。
ああ、終わりだ。そのまま。
不意に体が風から遮られた。
不思議に思うと見るとリヴァイがブランケットをかけティアナの肩を掴んで包ませる。
「寒いだろ」
「あ、りがと、」
近い距離と昼間のリヴァイとに戸惑っていると「顔、上げろ。下向いて喋んな」と優しくリヴァイが言う。
少しだけ顔を上げるとコツンとリヴァイの額がティアナの頭に落ちてくる。
近すぎてリヴァイの息遣いが髪を撫でる。
「話がしたい」