第23章 話したい
「じゃ、ここに置いておくから少しだけでも食べてね」
聞きたいこと、言いたいことはあるがそっとしておこう。リシナは食事のトレイを備え付けのデスクに置いて一言だけを掛ける。
「ありがとう」
あれから目に見えて元気もなくなったティアナに本部の人達は何を言ったんだろう。
これから、その本部の二人にも食事を運んで行かなきゃならない。愛想良くできる自信は全くないが班長からの頼みに応えるしかない。とティアナの部屋から出て次の食事を運ぶためカートを押した。
食事の時間も終わった頃トレイの回収に客人の部屋へ向かうが、ユンカー班長の知り合いは完食しているのにもう一人の陰気な男の人は手付かずだった。
回収するだけしてティアナの様子を見に行ってみよう。
コンコン。部屋をノックしても声をかけても部屋からは応答がない。ノブを回すと誰もいなかった。
ユンカー班長に報告しなくては。
「そうか、外の空気にあたりに行ってるんだろう。」
「食事も摂ってなくて。ティアナが心配です」
本当は”大丈夫”とも思ってないし”心配”はするが、これはティアナの個人的な問題だ。他者が無闇に入り込んでいけない。
リシナには笑顔で元気づけ、今日の労をねぎらって早めに休むようにと上官らしく告げた。
今日は散々だった。散々どころじゃ、ない。
本部から戻って注意散漫になって、ただでさえ落ち込んでいたのに。
「どうして…?」どうしてハンジさんとリヴァイはここに来たのだろう。
とどめを刺しにでも来たのだろうか。
結局、分かったことはリヴァイが私をどう見たかが分かっただけ。嫌いどころじゃなかった。
寒くて両手を擦りフゥーと息を吹き込む。
ボケっとしてたおかげで温かい紅茶を入れたタンブラーもブランケットも持ってきてない。冬がそこまで来ていて夜は冷えた空気でティアナに鳥肌を立たせる。
(戻ろうか)
でも暖かい部屋に戻った所で眠れもしなければ内側までは暖かくはならない。
どうせ寒いのなら夜空を眺める方がまだ、いい。
歩き出すともう通い慣れた道をランタンがささやかな光で照らす。
こんな時だから今夜は気が済むまで歌おう。