第21章 巡回公演
予定時刻に戻った私をエルヴィン分隊長は兵門で迎えてくれた。
色々と諍いばかりではあったけれど今回の公演にはエルヴィン分隊長が尽力して整えてくれたのも事実。
その場で謝辞を述べるとエルヴィン分隊長は「兵団の憩いになるから、お安い御用さ」と端麗な顔に笑顔を浮かべた。
私を宿舎まで送ると早く休むよう告げると兵舎に戻っていく。
恐らくはまだ、仕事をするのだろう。
その背を見つめていると「おい」不意に女子宿舎から少し離れた木に持たれたリヴァイがいた。陰に隠れて今まで気づかなかった。
「せっかく本部に戻ったってのに挨拶もなしか」
「いろいろあって、、ごめんなさい。これからも暫くはあの場所にはいけない。」
「はっ、そうかよ。じゃあな」
不機嫌極まりないとリヴァイは全身で示して男子宿舎へ戻って行った。
まだ、公演の準備であの場所でリヴァイとゆっくりすることは出来ない。申し訳なく思いながらも公演が終われば時間も取れるだろうと後を追うことすらしなかった。
男子宿舎に戻り、苛立ちのまま、ゴミ箱を蹴った。ゴミ箱は凹んで使い物にはならないだろう。
でも、こんなもんじゃ巣食ったドス黒い感情は収まらない。
周りにいた奴らは触らぬ神に祟りなし。と離れていく。そんなことはどうでもいい。ティアナが顔をみせずに素っ気ないこと。以前よりも距離感があること。
エルヴィンとの距離が近いこと。
「チッ」こんな時は酒でも飲んで、とっとと寝るに限る。そもそも眠りが深いほうじゃないので、眠れるかは分からんがそのままよりはいいはずだ。
眠れねえ。酒を飲んでもちっとも酔えねえ。自分がこうまでイラつくのはティアナが関係してることはわかってる。ガキみてーな勝手は分かってるから無性に腹が立つ。エルヴィンと出掛ける時間はあるのに。
「クソが」
それがティアナに対してなのか、やたらと口出ししている自分に対してか、両方か。
どうせもう眠れやしない。顔でも洗って紅茶でも飲もう。
あれから飛ぶように日々は過ぎ、日中は軽い訓練、夜はセッション。だいぶ合わせられるようになったけれどもクルトや、レオナにとって私の声域がかなり狭まっているのは計算外だったようだ。
楽譜を書き直し声合わせを変えた。
そうして二週間は過ぎ本番当日がやってきた。