第21章 巡回公演
そこにいるのは間違いなくクルト。
「ちゃんと手紙読んだ?近々って書いたろう?」
「いや、えっと手紙は今日届いて、さっき読んで。嘘、なんでいるの?」
「プッー!マヌケ顔。それが見たかったんだ!」
イタズラっ子のノリでお腹を抱えて笑うクルト。
状況がわかり始めると段々と怒りもでてくる。
だけど懐かしい気持ちが勝った。
「クルトっ!」
お腹を押さえてた両手を広げたクルトと私は久々の再開にハグをする。
「少し…かなり筋肉質になったもんだ。さすが兵士だね」
「兵士ですから」
ハグを解いて落ち着くとちょうどリシナがお茶を持ってきてくれた。
「クルト、同僚のリシナ。リシナ、友達のクルト。」
紹介すると、クルトはリシナの手の甲に触れるか触れないかのキスをして名乗る。
「クルト・ヤンセンと申します。お見知り置き下さい」
あぁ〜これは。やり過ぎだ。リシナは真っ赤な顔でトレイも落としそうだ。
きっと後でリシナに尋問を受けることになる。
そそくさとリシナが出ていくとクルトに注意する。
「クルト、そういう挨拶は王都だけにしておいて、リシナ困ってたじゃない..」
腑に落ちない。という顔でクルトは返す。
「どうして?ちゃんと挨拶したでしょう?」
「大仰過ぎるの。まるで演劇のヒーローみたいでしょう??」
「ふむ。よくわからないけど、過ぎたことはいいでしょう?」
はぁ。クルトはこういう人だ。生まれも育ちもシーナだから、これが普通なんだよね…まぁ、クルトの言う通り過ぎてしまったことはもういいや。
「どうして急に、というか。ここに来てくれたの?」
「それそれ、公演日は少しだけ先に伸びたんだけど、これを早く渡したくて。」
クルトが持ち上げて見せたのは見慣れた楽器のケース。
見慣れたそれには私の好きなヴァイオリンがくるまれているはずだ。
「ありがとう!」
「どういたしまして。でも、前のお気に入りはどうしたのさ?ずっと大事にしてたのに。」
本当の事は言えない。兵士どうしのトラブルで…なんて言えない。
「うっかりしてて。弾きたくて持ってたのに転けちゃって壊しちゃったの、、」
「…ふぅん」
多分この嘘を信じてないけど深くは聞いてこないクルトに心の中で感謝する。