第19章 夜の静寂に響く
しばらく歩いて今のティアナの場所に着いた。ランタンと持参した荷物はベンチに置いて他愛ない会話をする。抜け目ないリヴァイが、冷えた体を温める為に入れた紅茶はくせがなく温かくウィスキーの香りがした。
「リヴァイ!紅茶にお酒入れたでしょ?!私お酒飲めないのに。」
「香り付け程度だ、酔ったりしねえよ。体が温まるだけだ。」
プクーと頬を膨らませたティアナの表情が初めてで、リヴァイは口角を上げた。残念ながら笑顔とは認識されない程度ではあったけど、いつもより柔らかい声でティアナはリヴァイも楽しみにしているのだと感じた。
一口だけリヴァイ特製紅茶を飲んで、喉を湿し音階をなぞる。
ベンチから立ち上がり、少し離れ更に発声練習をしていく。納得いったのかティアナはリヴァイに目で合図する。
そしてリヴァイにとっては久しぶりの穏やかで切ない歌が、声が空間ごと包んでいく。
ティアナは何曲か歌うと、あんなにブツブツ言った紅茶をチョビチョビ飲んで息を白くさせている。
リヴァイが持ってきたブランケット二枚をティアナに掛けるとふんわり笑ったティアナは自分のブランケットをリヴァイにかけた。
リヴァイをティアナの香りがブランケット越しに包んでいく。
ティアナの香りを感じた途端リヴァイは胸が締め付けられる感覚になった。清潔な石鹸に混じってほんの少しだけ甘い香り。
本部に居た時だってわからなかった。香り。
無言のまま、紅茶を飲んでいると不意にリヴァイから話をしだした。
「なあ、ここはお前にとって良いところのようだな。本部の時より良く笑うし、雰囲気も変わった。」
「そうかな?そうかもしれない。でも私は本部に戻りたいよ」
「何故だ、ここは良いところなんだろ」
「ここはね、ニコニコしてなきゃいけない。辛いのは患者さん達で、寄り添う私達じゃない。でも、私は弱いから一緒になったつもりで辛くなる。だから、笑うの、かな?」
「壁外なんて、巨人どもが問答無用に襲ってくるのにか?」
「体の痛みや不自由さも人にとって辛過ぎるよ、それに精神も傷んでずっと抱えて生きてくのも人によっては死ぬより辛そうに感じる時がある」
「俺はここが、お前の天職なんじゃねえか?とさっきまで思ってた。」
「そうだろうね。でも私は必ず戻る、戻るよ」