第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
というわたしのあれこれが、とんでもない邪稚だったことに気づくのは、その3秒後のことだった。
ふ、
わ、
り。
重力をも感じさせないように、わたしを高く抱き上げた煉獄さんは、上手い具合に人を避けて走り出した。
駆ける、駆ける、駆ける。
涙でにじんだ瞳に、ぼやけた人々の着物の色と、夜店の明かりと、なにもかもすべてが、柔らかく映る。
ああ、もう。
もしもわたしが最終選別で死んだとしても、後悔はしない気がする。
この景色を見られたことを思い出せば、死ぬことすら厭わないかもしれない。
どうしよう。
見ないふりをしていた。
気づかないふりをしていた。
でも、もう、隠せない。
わたしは煉獄さんが、好きだ。