第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「……大丈夫か?」
俯いて涙を流すわたしに、煉獄さんはあくまで優しく問うてくる。
大丈夫です。
そう答えたくても、何故か声がでなかった。
わたし、大丈夫じゃないのかもしれない。
「……すまん、今から君を抱く」
は、い?
耳元でサイダーよろしく弾けたのは、そんな低い声。
な、な、な、なんで?
抱くって、そんな、いきなりすぎませんか。
って、そうじゃなくて。
泣いているのも忘れて思考をぐるぐると巡らすわたしを置いて、煉獄さんはしゃがんで、わたしと目線を合わせてくる。
「抱くぞ」
いや、だから。
そんな宣言、しないでください。