第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「ここまで来れば大丈夫だろうか!窮屈だっただろう、すまない!」
そんな笑顔で謝られても……。
いや、むしろ、わたしの方が謝らないといけないのに。
『煉獄さん、ごめんなさい。
せっかくお祭りに連れ出してくださったのに、わたしったら、つまらないことを』
「案ずることはない、俺は君の気持ちを尊重する」
そう言って、煉獄さんはやっとわたしを地面に下ろした。
地面の感触そのものに懐かしさすら覚えて、わたしはまだ涙の気配が残る瞳もそのままに、やっぱり笑ってしまった。
『煉獄さん』
「うん?」
『師弟関係が壊れてしまうのが、嫌でした。
これまでの鍛練の時間が、よこしまで汚いものだったと思われるのが、嫌でした。
ですが、鍛練の間はただひたすらに、炎柱の継子として励んでいたつもりです。
これから口にすることは、どうか、わたし個人のものだと、分かってください。
今、言わなければいけない気が、したのです』
さわさわさわ。
夏草が揺れている。
遠くで、太鼓のおとが聞こえる。
楽しそうな人の声、にぎわい、すべてがわたしの研ぎ澄まされた感覚を刺激する。
『……あなたを、慕っております』