第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「……それは」
『ああ、もしわたしが死んでも、形見になるかもしれませんね』
わたしは笑って見せた。
そうしないと、千寿郎くんが貸してくれた身の丈に合わない仕立ての良い着物に、涙をこぼしてしまいそうだったから。
「馬鹿なことを言うものではない!」
人混みで、怒号が響いた。
「そんなに弱気になるようでは、最終選別へは行かせられない!
何が形見だ!
むしろ、『金魚のために帰ってきます』くらい言ったらどうだ!」
怒られているのは分かっている。
実際、通りかかる人に憐れみのこもった視線を送られて、わたしはちょっぴり恥ずかしい。
でも、どうせ怒るなら、ちゃんと怒れば良いものを。
なんといっても煉獄さんは、ご丁寧にわたしの声真似をしたのだ。
めちゃくちゃな裏声で。
ああ、もう、だめだ。
笑ってしまう。
そして、なぜだろう。
泣けてきて、しまう。