第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
不意に立ち止まったわたしに、煉獄さんは不思議そうに尋ねてきた。
「どうした?」
『……金魚すくい、ですって』
広い桶のなかには、悠々と泳ぐ鮮やかな赤たち。
わたしに倣ってしげしげと桶を眺めながら、煉獄さんは笑った。
「やってみたらいい」
『いいんですか?』
「何、かき氷に付き合わなかったからな」
そう言った煉獄さんは、いつの間にか店主にお金を払っていたらしい。
お嬢さんの方でいいのかな、物腰柔らかな店主に頷きながら、煉獄さんがわたしの手を引いた。
「さあ」
お礼を言う間もなく、ポイを手渡されて。
自然と離された手の温度が恋しいと思いながらも、わたしはゆっくり、桶の前にしゃがみこんだ。