第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
『煉獄さん、かき氷ですって』
「あれを食べるといつも頭が痛くなる」
『それは、食べるのが早いからですよ』
いちごのシロップがかかったかき氷を頬張って、きぃんと響く頭を抱える煉獄さんを想像して、わたしはくすくす笑う。
「そうか、そういうからくりか!」
『からくりと言うほどのものではないと思われますが……』
「まあまあ、細かいことは置いておこうじゃないか!」
『……ふふ、そうですね』
いつの間にか、繋いだ手はごく自然なものとなっていた。
煉獄さんの温度と、わたしの温度。
その二つが混ざりあって均衡を保っているのを想像して、やっぱりわたしは笑ってしまう。
「……楽しいか?」
『はい?』
「いや、君があまりに嬉しそうにしているから」
『はい、楽しいです!』
今度は、わたしが煉獄さんの手を引く番だった。
『煉獄さん、こっちです!』
彼が微笑む気配がする。
待ってくれ、そんな言葉も人混みで聞こえないふりをして、わたしは手を引いてみせて。
ああ、しあわせだ。