第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「やあ、盛況だ」
夜店が一直線に立ち並び、夜なのに明るいさまはまるで都会みたいだ。
『人が多いですね』
「君がはぐれてしまわないか、心配で仕方ない」
ひどい、また子ども扱いですか。
そう返そうとすれば、彼は本気で心配しているようで。
隆々とした眉がふにゃりと曲がって、情けない顔になっている。
何だかそれも、悔しくて。
『じゃあ、手でも握っていたらどうでしょう』
「それは名案だな」
一転、にっこり微笑んだ煉獄さんは、遠慮なくわたしの手に指を絡めてきた。
え、手を握るって、こういうことなの。
『や、あの、やっぱり、恥ずかしいかも』
「さあ行こうではないか!」
ふわり、彼の着ている着流しの袖が柔く揺れる。
ほんとはすごく、恥ずかしい。
でも。
『……はい』
どうしたって繋いだ手の温度がうれしくて、でも恥ずかしくて、わたしはなにも、言えなくなって。
からん、下駄を鳴らした。