第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「祭りがあるそうだ」
煉獄さんの低い声が、わたしの鼓膜を柔らかく揺らす。
昼間の暑さを残した夕は、どうにも落ち着かない。
鍛練後には着替えて湯浴みをしたものの、既にわたしの首筋には汗が滲んでいる。
『素敵ですね。千寿郎君、喜ぶと思いますよ』
縁側に腰かけ直して、わたしはあくまで興味などないのだというふりをした。
「俺は、君と行きたい」
所在なさげに放り出しておいた手に、煉獄さんが触れてくる。
そんなことをされるのは初めてで、わたしは目を、見開いて。
『……わたしで、よければ』
ああ。
空が、血のように赤い。