第8章 楽園の果実
「しかしながら槙島くん。君の愛する血族の彼女は、君のやる行いに何処まで理解を示しているのかね?」
シャンパングラスを空けた泉宮寺は槙島にそう問いかけた。
「……真壁亜希、今の彼女は恐らくどんなことでも受け入れてしまうある種の思考停止に陥っています」
僕と生活を共にし始めた3年前からね、と言った彼はテーブルの紅茶に口をつけた。
「それはそれは……とても気の毒な話だな」
泉宮寺が言う。ソーサーにカップを置いた彼は話し始める。
「亜希は今、日々の音楽活動によって自我を保てているんですよ。彼女の音楽に対する執着心は、この上ない逸品です。まるでこの紅茶から香るウバフレーバーみたいにね。……それでですね、今回の獲物”狡噛慎也”について情報を集めていたら、少々面白いことになりまして」
「ほう。何かしらの関係性があったのか」
———ご名答、と答えた彼は紙の資料を見せた。
「………狡噛慎也の公安局での配属先は———」
———3年前のあの日まで、公安局の監視官として任務を全うしていた彼女と同じ、刑事課一係なんですよ。