第8章 楽園の果実
「何のために監視官と執行官の区分けがあると思う? 健常な人間が、犯罪捜査でPSYCHO-PASSを曇らせるリスクを回避するためだ!」
宜野座が強く説明する中、同室に居た縢は大きなビンに入った小さなお菓子を一粒食べて声をうならせた(宜野座達を気にしていないのか)。
「”二度と社会に復帰できない潜在犯”を”身代わりに立てている”からこそ、君は自分の心を守りながら職務を遂行出来るんだ!」
「そんなのチームワークじゃありません! 犯罪を解決するのと、自分のPSYCHO-PASSを守るのと、一体どっちが大切なんですか!?」
「……君はキャリアを棒に振りたいのか? ここまで積み上げてきたもの全てを犠牲にするつもりか!?」
宜野座の言葉に息を詰まらせる常守。彼女は、「私は……」と肩を上げて自分自身の意見を叫ぶ。
「私は確かに新人です! 宜野座監視官は尊敬すべき先輩です! しかし、階級上は全くの同格ということを忘れないで下さい!!」
彼女の言葉に嘆声をもらす宜野座。常守は続けて叫ぶ。
「自分の色相はちゃんと管理出来ています!! いくら先輩とはいえ職場で……っ、執行官たちの目の前で!」
「私の能力に疑問符を付けるような発言は謹んで頂きたい!!!」
常守の発言に一係の執務室内は静まり返る。わずかの間をおいて、宜野座はその場を離れた。自動ドアの閉鎖音が聞こえ、彼が居なくなったあとに「あんな言い方……」と呟いた常守はクルリと方向を変えて歩き出した。それを見た征陸は常守を追いかけた。