第8章 楽園の果実
一係のオフィスに向かう常守と狡噛。
———先日、臨床心理学の元教授・雑賀譲二の元へ訪れた際に拝見した受講生名簿の中には、狡噛曰く『”シビュラシステム誕生以降最悪の犯罪者”で肉体的にも頑健なハイレベルの知能犯、特殊なカリスマ性を持ちまるで音楽を指揮する様に犯罪を重ねていく男』。雑賀が言う3つのカリスマ性、『英雄的・預言者的資質、シンプルな空間演出能力、知性』全てを備えている男。———槙島の名前は残念ながら無かった。
「結局、雑賀先生の受講生名簿は空振りでしたね……」
「仕方がない。だが『槙島』が生きている人間なら、必ずどこかに足跡がある」
執務室の自動ドアが開かれ二人は室内に入ろうとする。が、二人が自席に着こうと歩みを進めると、座っていた宜野座が立ち上がり、狡噛の目の前へと現れる。
「……常守監視官を、雑賀譲二に引き合わせたそうだな」
と、言う宜野座からは陰湿な雰囲気を感じる。「ああ」と事実を認める狡噛に「それは、私が紹介を頼んで……」と補足説明しようとする常守の言葉に宜野座は割って入る。
「どういうつもりだ。彼女を巻き添えにしたいのか?」
「貴様と同じ、道を踏み外した潜在犯に———」
宜野座の台詞に納得がいかなかったのか常守は彼に歯向かう。
「ちょっと待って下さい! 私を子供扱いしてるんですか!?」
「事実として君は子供だ!! 右も左も解ってないガキだ!!」
宜野座が声を荒げて叫んだ。常守はその言葉に一驚する。宜野座は続けて喋り出す。