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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第8章 楽園の果実





「……最も狡猾でいくら狩り殺しても、絶滅の心配がない動物は何だと思う?」


 外には”猟犬”が彷徨いている屋敷の中の、僅かな明かりしかない薄暗い食堂のダイニングテーブルの上で、110歳の老人———泉宮寺豊久は右隣で本を読んでいた彼、槙島聖護に問いかけた。

「……人間でしょう」
 槙島は本から彼に視線を移して答えた。
「………簡単すぎたな」
 と言う泉宮寺は、自身の猟銃である上下二連銃の手入れをしていた。
「私は合法的に野生動物を殺したことがある最後の世代だ。今はもう、普通の狩猟は許可が下りない」
 クリーニングロッドを銃身の中に入れて掃除する。
「槙島君には、感謝してるんだよ」
 そう言う泉宮寺は、スプレーオイルを銃に吹きかけ手入れを続行する。しばらく作業をした後、銃を置いて「……ちょっと一服しようか」と話した。パイプに煙草の葉を詰めてガスライターで火をつける。

「パイプ煙草とは趣味が趣味が良い。……象牙、ではありませんね」
 喫煙の様子を見ながら呟く槙島に「まだ見せたことはなかったかな」と使っているパイプについて語り出す泉宮寺。
「このパイプは、マウスピース以外は王陵璃華子の骨だよ」
「……ほぅ」
「こうして触っていると………獲物を仕留めた瞬間を思い出す」
 煙を吐き出しながら彼は言う。
「心が若さを取り戻すんだよ。恐怖に震え上がる獲物たちの魂が、私に活力を与えてくれる」
 と、氷漬けのシャンパンに手を取った。

「……肉体の老いは克服した。あとは心、ですか……」
「そういうことだね。元より生命とは、他の命を犠牲にし糧とすることで………健やかに保たれる」
 注いだシャンパンを飲んで話す泉宮寺。
「だが……体の若さだけを求め、心を養う術(すべ)を見失えば当然、生きながらに死んでいる亡者たちばかりが増えていく」
 シュンと機械的な音を出して眼球の虹彩部分を小さくさせた彼は「愚かしい限りではないか」と話す。
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