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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第8章 楽園の果実



「……アーカイブ化は無理だな」
 とフロントドアに肘を置きながら話す狡噛に「何かあったんですか?」と尋ねる常守。狡噛は「シビュラシステムと大学制度が同時に存在していた頃の話だ」と説明し始めた。

「公安局捜査官のために雑賀先生の特別講義が設けられていた。最初のうちは、優秀な生徒を生み出す最高の講義だとされていたが……ある時、大問題が発覚した。……受講生の色相が濁り、犯罪係数が上昇したんだ」
 狡噛の言葉にえっと驚く常守。「まっ、全員じゃないがね」と言った彼は話を続ける。
「生徒が多数だと、雑賀先生でも全員の心理状態を把握することは難しい。今日のような、一対一(マンツーマン)の講義なら大丈夫だ」
 それにあんたは色相が濁りにくいタチだしな、と話す狡噛。
「……でも、講義だけで犯罪係数が上がるなんて……」
 と、自分自身の思いを述べる常守に狡噛は「底が見えない黒い沼がある」と喋る。

「沼を調べるためには飛び込むしかない。先生は何度も調査のために潜ったことがあって慣れている」
 犯罪の研究に何度も携わった雑賀のことを語る狡噛。
「でも全ての生徒が沼に潜って無事に戻ってこれる訳じゃない。……能力差や、単純に向き不向きもある」
「……狡噛さんは、深くまで潜りそうですね」
 それでもちゃんと帰ってくる、と言う常守に「いや、どうだかな」と左腕に着けてある端末を見ながら喋る狡噛は言った。


「少なくともシビュラシステムは、俺が帰って来られなかったと判断した」


 微笑む狡噛に常守は、少し安心しながら体を揺らし笑った。
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