第2章 常守朱は認識する
しかし結果的には、執行対象の大倉信夫は始末することができ(狡噛が新米と年寄りを囮にし撃たれる前に始末した)、事件時人質とされた女性、島津 千香(しまず ちか)は保護され(常守のおかげで一時はリーサル判定値まで上昇していた犯罪係数がその場でノンリーサル判定値まで持ち直し宜野座の撃ったパラライザーで彼女を眠らせて確保することができた)、その後のセラピーでは回復に向かっており、これにて一件落着となったのであった。
そんなこんなで今日の午後から常守は出勤して直で46階の総合分析室に向かった。そこに居たスタイル抜群の長い金髪で医師免許を持つ喫煙家の分析官、唐之杜 志恩(からのもり しおん)によると、狡噛は今朝意識を取り戻したらしい。常守は、少し安心した(唐之杜の破廉恥な服装については触れなかった。また、彼女のからかいジョークは常守の真っ直ぐすぎる瞳によって流された)。
けれども、どうにも。彼女、——常守朱は気まずかった。
部屋の奥にある監視官の机で常守は報告書を書いていた。タブレットキーボードを叩く音が彼女の指から聞こえる。しばらくすると、その音が止む。あれ、と思い反応しないことに気づいた常守は故障だと考えタブレットの予備を貸してもらおうと同じオフィスにいる部下に目をやった。
彼女から見て奥のデスクでは、狡噛と同じ“執行官”の六合塚 弥生(くにづか やよい)と縢 秀星(かがりしゅうせい)がそれぞれ、好きなことをしていた。———つまり今二人は暇なのであった。