第8章 楽園の果実
《本日は、全身サイボーグ化の先駆者(パイオニア)》
《地下再開発を進める帝都ネットワーク建設の会長》
《泉宮寺豊久さんにお越し頂きました》
《よろしくお願いします》
監視官・常守朱が立体ホログラムの人工知能、クラゲのような形をした”キャンディ”に少々茶化されながら以前狡噛の宿舎を訪ねた時に彼が飲んでいたグリーンのキャップが目立つミネラルウォーター(つまり彼と同じもの)を口にしキャンディが言う『厚生省から投稿されたおすすめの動画』を見ていた時間———。時を同じくして彼女、真壁亜希も同じ動画を見ていた。
《義手・義足の高性能化が進み、ホログラム装飾の効果もあってか、医療目的のサイボーグ技術は私たちの生活にすっかり馴染んだものとなりました》
彼女、真壁は静かな部屋で腕を組みながら立ってその動画をみていた。大型のテレビに映された泉宮寺と司会者の映像。彼女が住んでいるこの家には、この時代には珍しく、人工知能のホームセクレタリー1つもない家だ。環境ホロも、建物内のホロも、勿論彼女の服装ホロもなかった。
そんな彼女は、誰かと通話をしながらこの動画をみているようだ。
《しかし、泉宮寺会長のように脳と神経系以外全てをサイボーグ化した例はまだまだ珍しいものです》
《……不思議なんですよ。なぜ皆早く不自由な肉体を捨ててしまわないのか》
《不自由……ですか……?》
動画から音声が聞こえる中、彼女は口を開く。
「身体のサイボーグ化が完了した彼、泉宮寺豊久———」
『……泉宮寺さん、彼がどうかしたかい?』
亜希、と問いかける電話越しの彼。
「あら? ……もしかして彼とはお友達なの?」
しょーちゃん、と言う彼女は彼の言葉に食いつく。
『………亜希、彼が言うにはね、”肉体は魂の牢獄”、だそうだよ』
「あははっ、あなた今、動画の彼と同じことを言ってるわ。それにその言葉、ソクラテスの弟子の言葉じゃない」
『フッ……読み取られてしまったよ』