第7章 沈黙は、語り続ける。
ガシャン、ガシャンと音が響く一帯、王陵は物陰に身を潜めていた。口を手で塞ぐ彼女の身体は震えていた。金網越しから”猟犬”の歩く姿を確認した王陵は、安堵の声をもらして立ち上がる。そして、彼女は目の前の罠に気付かずに、歩こうとする。トラバサミのような形をしたギザギザの刃がある罠は、ばね仕掛けによって彼女の片脚を挟み込んだ。
「キャアアアアアァッ!!」
彼女の悲鳴が響き渡る。脚の骨を粉砕された彼女に苦痛が襲う。
『この女の涙を見るのは、あなたの名誉になる。』
『ただし心を火打ち石にして、涙の雨だれなど跳ね返すこと。』
王陵璃華子は、赤い血を垂らしながら脚を引きずって地べたを這いずる。
「……ぅ…………さま……」
「お父さま………お父さま……っ」
彼女は携帯を取り出して今はもういない、王陵牢一に電話をしようとするがガシャンガシャンと重量感のある音が聞こえた目の前には、猟犬の姿。王陵は、目の前に差し掛かる死の恐怖に目を大きくさせた。その瞳からは本能的になのか、涙が溢れていた。
赤い体をした猟犬は長い尻尾を振って先端にある鋏のようなもので、携帯を持っていた彼女の左手を切断した。彼女の携帯と左手の上部分が血飛沫をあげて飛んでいく。
『さて、その舌で喋れるなら告発するがいい。』
『誰に舌を切られ、誰に犯されたか。』
『思いの丈を書いて訴えるがいい。』
『その二つの切り株で字が書けるなら。』
やがて、彼女の前に二匹の猟犬を連れた男が現れた。その男、泉宮寺豊久は猟銃を持っていた。
「……ゲームセットかね? お嬢さん」
狩用の眼鏡をした泉宮寺はそう言いながら銃口を彼女に向けた。
「…………あなただって、いずれ槙島先生が飽きたら、捨てられる……」
切断された左手をもう片方の手で押さえながら言う彼女は、震えながら彼に言った。
「……ご心配なく」
泉宮寺は引き金を引いた。大きな銃声と共に彼女の顔が宙を舞う。ボチャンと音を立てて下にあったため池に彼女の顔がプカプカと浮かぶ。
「……君は楽しませる側の小狐だったようだが、私は彼と同じく楽しむ側のプレイヤーでね」
下を見ながら泉宮寺は黒髪を泳がせる彼女に向かって言うように喋った。