第7章 沈黙は、語り続ける。
真暗闇の中コツ、コツと足音が響く。
「……本当にこのルートで確かなのね?」
王陵璃華子は問いかける。「チェ・グソン?」と彼の名を呼び、手に持っていたライトを後ろに照らすがグソンの姿はない。
「………ッ!?」
王陵はグソンがいないことに気づく。彼女に張り詰めた不安が襲ってくる。すると、タイミングよくピリリリリと端末から着信音が聞こえ、王陵は応答する。
「………先生?」
『念の為、最後に質問しておきたい』
端末から、槙島の声が聞こえる。
『王陵璃華子、なぜ僕を失望させることになったのか……君自身に自覚はあるかな?』
「な……何の話です? 私が一体何を……?」
彼女は言われたことに全く見当がつかないのか、彼に尋ねる。
『うん……自覚がなければ反省のしようもない。やはり君にはこれ以上の成長は期待できないようだ。———残念だよ、初めはもっと前途の有望な子だと思っていたんだが』
「先生……!? 槙島先生! 一体どういうことなんですか!?」
『……君があのまま公安局に処刑されてしまうとね、ええと……そう、ゴートの女王、タモーラの台詞だったかな?』
と、槙島は隣にいたグソンとやりとりを交わしながら言った。
『可愛い息子たちからのご褒美を奪うことになる。』
『あの子たちの情欲は満たしてやらねば。』
プツン、と通話の切れる音がする。はっと驚いた王陵の端末は、いきなり圏外になる。
「……な、何なの……?」
『さぁ、狩りが始まるぞ。』
本を胸元に置きながら槙島は、”見物台”に立って喋る。
『しらじら明けの朝、野原はかぐわしき香り、森の緑は濃い。』
『ここで猟犬を解き放ち、声高く吠えさせよう。』
———王陵璃華子の目の前に、猟犬型のドローンが現れる。王陵は、怯えながらも逃げる。
『真夜中になるとここは、何千もの悪魔やシューシューと威嚇の音を立てる蛇、何万もの小鬼や身体の膨れあがったヒキガエルどもが集まって、身の毛もよだつ狂乱の叫びを上げる。』
狩人である彼、泉宮寺豊久は雨粒が窓を叩く中、目の前に立ってスカーフを正す。
———彼が歌うそれは、”喜びの歌”。