第6章 変わらぬ愛の花言葉
「———あの、真壁亜希さんのことなんですけど……」
監視官、常守朱からそんな台詞が聞こえたのは狡噛が写真の男、マキシマについて情報を一通り常守に伝えた頃だった。
「隅にある楽器ケースって、真壁さんのものですよね?」
常守は、部屋に招かれ入室した時からずっと気になっていたことを狡噛に聞く。
「あぁそうだ。あんたが刑事課一係(ここ)に来るって聞いて、今までそのまま置き去りだったあいつの荷物を意味もなく自室に持ってきてしまったんだ。でも、俺は弾けないしどうしようかと困ってるんだが、……処分する気になれなくてな……」
狡噛は言う。
「……亜希のことは大方知ってるか?」
「いえ、征陸さんから写真を見せていただいたくらいで……」
常守は答える。
「そうか。……とっつぁんは亜希のこと、娘のように可愛がっていてな………あんた、ギノからは少しも聞いていないのか?」
「はい……真壁さんのことは一つも……」
「てっきり俺は知ってるかと思ったんだがな……ギノもあいつに対して、何か思うところがあったのかもしれない……」
狡噛は、宜野座が”真壁亜希”の名を一言も口にしないことを、そう意見する。常守はさらに質問する。
「真壁さんは、どんな人だったんですか?」
「———亜希は、毎日を生きてた」
頬骨をあげて、楽しそうに言う狡噛。
「佐々山とも上手に付き合える、品があって美しい女だ。音楽が好きでな、六合塚ともよく笑顔で話してた。……亜希のヴァイオリンの音は、素人の俺でも綺麗な音だと、そう思えるもんだった……」
狡噛の亜希への思いは、さらに続く。
「ある時あいつがテラスで弾いてる時に俺が『今日はいつも弾いてるヴァイオリンじゃないんだな』と言ったらあいつは何て言ったと思う?」
「…………」
常守は、どう返せばいいのか分からずに黙り込んでしまう。
「『楽器によって出す音は違う』んだとさ」