第6章 変わらぬ愛の花言葉
「死体の写真は見たか?」
狡噛は尋ねる。常守は気まずそうに「……はい……」と答えた。
「死体はホログラム・イルミネーションの裏側に配置されていた」
「はい……」
「イルミネーションの内容は知ってるか?」
「いえ、そこまでは……」
常守の言葉に狡噛は説明をする。
「薬品会社の広告だった。”安全なストレスケア。苦しみのない世界へ。”———佐々山は標本化される前、生きたまま解体されたことが、分析で判明した」
ギュッと右手を強く握る狡噛。
「犯人のメッセージみたいだったよ。『苦しいだけが人生だ』って……」
と、右拳を自分の目の前に持ってきて喋る。
「それをしでかした奴を同じ目に遭わせてやりたいと、いつからかそんな風に思うようになった時点で、監視官としての俺はもう終わってた……」
「———あと、遺体が見つかってすぐに亜希が行方不明になってな。ギノから聞いた俺は最初、冗談かと本気で思った。……こういうのは失ってから気づくんだな。刑事になった俺の人生は亜希と、そして佐々山に支えられてたんだ」
「……後悔はありませんか?」
常守は、そう狡噛に尋ねる。
「自分の行動に後悔はない。問題は、未解決なこと。そして同僚を一人、奪われたこと」
———この二点に尽きる。と、狡噛は言うのであった。常守はその言葉に強い信念を感じ、そんな彼に「3年前、藤間幸三郎に手を貸した共犯者………今でも使えそうな手掛かりはなにかありますか?」と常守は聞いた。
「あぁ」
と狡噛は別室の方へ歩いていく。ちょっとして自動ドアが開きそこから出てきた狡噛。
「佐々山が撮った写真がある。……酷いピンボケだがな……」
「佐々山の使ってた端末に保存されていた」と、ある一枚の写真を常守に渡す。狡噛は常守から見て左にあるソファーに腰掛けた。
「……この男……名前とかは?」
写真をじっくり見回して聞く常守。
「画像ファイルのタイトルは、『マキシマ』だった」
写真の大部分を占める被写体に狡噛はそう、名前を言うのであった。