第6章 変わらぬ愛の花言葉
常守は48階にあるトレーニングルームでスパーリング中の狡噛を立ちっぱなしでずっと見つめていた。
狡噛はあいつから教えてもらった武術、シラットを使いホログラムに覆われた人型のロボットに拳で顔を殴る。何回も素早く右拳で叩きつけるような勢いで殴なれるロボットからは鈍い音が聞こえる。鋭い目つきで息を吐きながら腕を振り下ろす狡噛を見た常守はそれ以上は危険だと思ったのか「やり過ぎですよ」と腰にてをあてて彼の名を呼んだ。
床に置いてあった端末を常守は拾う。そして画面に表示されている内容に驚く。
「スパーリングのプログラム最高レベルに設定してあるじゃないですか! 本当に人間ですか狡噛さん!?」
常守はそう言う。すると、「あぁ、それでもパラライザーで撃たれれば気絶する只のヤワな人間だ」と狡噛が返す。常守はそんなことを言われたら返す言葉が見つからないのである。
ジジ、と音を鳴らし殴られて数カ所凹んでいるロボットを見て常守は「後で絶対に管財課から怒られますよ」と言うが、狡噛は反省の色を示さずに「ダサ過ぎんだよ、このシステムが」と意見を述べ、ジッポで煙草に火をつけた。
煙草を吸う狡噛を後ろから前のめりになって見る常守は狡噛の鍛え上げられた身体を見て驚く。———しばらくその姿勢で見ていた常守に狡噛は口を開く。
「俺の顔に何かついているのか?」
そう唐突に聞かれた常守は「いやっ、別に」と手を振りながら答える。そんな様子の常守にため息をつき、再び煙草を吸い始める狡噛。常守はモジモジしながらも狡噛にこう言う。
「ドミネーターほど強力な武器が支給されるのに、ここまで過剰な戦闘訓練が必要なんですか?」
常守は尋ねる。その質問に「必要だ」と答える狡噛。
「強くて優れた武器を扱うからこそ、その使い手はより強くタフでなきゃいけない。相手を殺すのはドミネーターじゃなくこの俺だと……」
狡噛はさらに続ける。
「それを肝に銘じておくためにもココにちゃんと痛みを感じておかないとな」
ココ、と言う狡噛は左手を強く握りそう言うのである。
「……それって、私に対する教訓ですか?」
常守は聞く。
「あんたにドミネーターを撃たせるような状況は、願い下げだぜ」