第6章 変わらぬ愛の花言葉
とある病院の一室。
1102号室の王陵 牢一(おうりょう ろういち)の病室に彼女はいた。
看護師に声をかけられた当の患者、王陵牢一はその声に微動だにせず、虚ろな目で天井を見上げるだけだった。娘の王陵璃華子が来たのにも関わらず一切反応をみせない牢一に対して看護師は「お父さんもちゃんと解ってて喜んでいる」と言う。それに対して娘である彼女は「えぇ。もちろん」と建前上の台詞を喋った。
一面が湖に囲まれた、施設を一望できる休憩所のような場所に車椅子に座った牢一とその娘、王陵璃華子が居た。車椅子の手押しハンドルに手を添えたままの彼女は思う。
———ここにいる人々の全てがそうだ。何も気付かず、何も語らず、そして何も考えない。ただ、抜け殻のように生きて、やがて、雪が解けるように消えていく。
そんなこと言う彼女の父は、その名の通り”抜け殻”、だ。
———罪なき人々を死に至らせる伝染病。でも、この病原菌が根絶されることはない。
———これは、”安らぎ”という名の病。
———人々が望んだ死のカタチ。