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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第5章 狂王子の帰還




 ガタン、と音をたててデスクワゴンの一番下の引き出しが狡噛の手によって開かれる。彼の宿舎の一室にたどり着き立ったままの宜野座はペラペラと資料ファイルをめくり始める狡噛に一言声をかけた。

「お前は———」
 ———あの時の、と言おうとしたが「ギノ、あの事件と同じだ」という狡噛の言葉によって遮られた。

「ただ殺意だけを持て余していただけの人間に手段を与え、本当の殺人犯に仕立て上げている奴がいる」
 狡噛はファイルをめくりながらそう言う。間が空いて、「落ち着いて考えろ」と宜野座が声を上げる。
「あの時は特殊樹脂だが今度はプログラムのクラッキング・ツールだ。全然違う!」
「技術屋と周旋人がまた別なんだ。人を殺したがっている者と、その為の道具を作れる者とを引き合わせている奴がいる。………そいつが本当の黒幕だ」
 と、狡噛の言葉に「いい加減にしろ!」と怒鳴る宜野座。
「お前はいるかどうかも分からない幽霊を追いかけているんだ!!」
 資料に目を通し続けていた狡噛は宜野座の台詞に動作が止まる。
「……佐々山は突き止める寸前までいった………あいつの無念を晴らす。その為の3年間だった……!!」
 その力強い台詞に宜野座の目は鋭くなる。狡噛はそして、と付け加えさらに喋る。

「あの日の亜希は、佐々山と同じくして黒幕の尻尾を掴んだのかもしれない。もし、亜希がそいつの秘密を掴んで黒幕が何らかの事情であいつを利用していたら……そう考えると奴と行動を共にしていても可笑しくないんだ。亜希の遺体、姿を表さないのは恐らくそれだ。だから、俺はあいつを必ず取り戻す………!!」

 ———それは、彼の強い信念なのか。吐き捨てるように言った狡噛は立ち上がり、手に持っていたファイルを宜野座の目の前に突きつけたのだった。
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