第5章 狂王子の帰還
「とっつぁんも職員の定期検診記録だけで金原にマトを絞ったんだ。同じ真似を出来る奴がいた………あの診断記録は部外秘だったわけじゃない」
そう口を開いたのは狡噛だった。
「じゃあそいつが御堂を手伝った動機は?」
征陸が聞く。
「……動機は金原と御堂にあった。”奴”はきっとそれだけで充分だったんだ」
今までの狡噛の様子と違うことに気づいたのか、宜野座は何が言いたいのだろうかと狡噛の名を呼ぶ。
狡噛は椅子から立ち上がり、そしてこう喋る。
「殺意と手段。本来揃うはずのなかったその二つを組み合わせ新たに犯罪を想像する———」
———路地裏でのあの光景が再び脳裏に焼き付く狡噛。思い出したくもない思い出に色がついて”あの日”が蘇る。
———そして彼は”あの事件”と同じことが繰り返されていることに気が付く。
「それが”奴”の目的だ」
狡噛はその言葉を最後にし、オフィスから出て行く。狡噛の意図がわかったのか不機嫌に舌打ちをした宜野座は彼を追いかけた。
狡噛と宜野座が去っていった一系の執務室は無言のままであった。