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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第5章 狂王子の帰還




 夕日が差し込む桜霜学園のとある一室。そこにはキャンバスボードが沢山置かれていた。その教室の隅で彼女、王陵 璃華子は座ってキャンバスの上に置いたスケッチブックに絵を描いていた。———どうやらここは彼女が昼時言っていた美術部の部室らしい。部屋にいるのは彼女だけみたいだ。彼女は休む間も無く鉛筆を動かす。スケッチブックの絵は一見するとおぞましく、猟奇的な作品であった。王陵は表情を変えずただひたすら作品の下書きをする。すると、トントンと入り口のドアをノックする音が聞こえ「失礼します」と女性の声と共にそのドアが開かれる。
 訪問者に気付いた彼女、王陵は入り口の方に目をやる。視線を向けられた女生徒は頬を赤らめていて嬉しそうな様子である。パタンと引き戸の閉ざされた音がすると「来てくれたのね」と王陵は今まで描いていたスケッチブックを閉じて立ち上がった。

「聞いたわ。あなたのお父様のこと」
 二人は立ったままで両者向かい合っていた。夕焼けのこぼれた太陽の光が室内には差し込んでいるが薄暗い空間だ。王陵の台詞に茶髪の両端で髪を束ねている彼女、大久保 葦歌(おおくぼ よしか)は驚嘆し反応を見せた。

「お母様の再婚相手……近頃ずっと元気がなかったのはやっぱり、それが原因……?」
「……気付いてて、くれたんですか……?」
 その言葉に王陵は「ええ」と肯定した。

「私はずっと葦歌さんを見ていたから」

 王陵の台詞に彼女は涙をこぼし王陵先輩、とか細い声を出した。

「何があったのか、話してくれる?」
 彼女は詳細を話し始める。
「あ……あの人は、その……私のこと………はっきりと、い……いやらしい目つきで……っ、家に帰る度に誰かが私の部屋に入った跡があるんです………」
 「こんなの耐えられない……っ」と言いながら両手で顔を覆い尽くす。「でも……っ」と言う彼女の言葉に「お母様には相談できないのね?」と頬を右手で触りながら言う王陵。彼女は、「本当の父が残した借金はとても母だけでは返済しきれなくて……あの男に頼らないと……」と喋る。さらに彼女の悲しみは続く。
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