第5章 狂王子の帰還
———そこには、三人の生徒が三角形のような列をなして食堂の奥へと歩みを進めている姿があった。彼女達が歩くたびに感嘆の声や「王陵先輩!!」、「璃華子先輩だ……!!」との声も聞こえてくる。その全ては中心を歩く彼女、前髪を水平一直線に揃え腰付近まで伸びている艶のある黒髪の持ち主、王陵 璃華子(おうりょう りかこ)に向けられている。彼女と目があった女生徒は興奮の声を発していた。
そんな様子を見ていた彼女達、川原崎と霜月の二人は小声で話しはじめる。
「……王陵璃華子って何であんなに人気があるのかな……」
霜月が疑問を呈する。
「美人だし、頭も凄く良い……理由はハッキリしてるじゃない」
霜月の疑問に川原崎はすぐさま返す。
「私……あの人ちょっと怖いんだよね」
「どうして?」
「目が、ね……時々虚ろなんだ。ここじゃない別次元を見つめるような目をする———」
———会話に夢中な二人の後ろでコツ、コツと歩く音が彼女たちの元へと段々近づいてくる。そしてそれは彼女達が使っているテーブルの手前でピタリと止んだ。
「川原崎さん、霜月さん」
凛々しい声を発したのは噂の彼女、王陵 璃華子であった。そんな彼女の呼び声に対し「どうも……」とぶっきらぼうな挨拶をする霜月。川原崎は頰を赤らめ緊張した様子で挨拶をする。「食事中にごめんなさい」と前置きをした後に彼女、王陵は話す。
「二人とも何のクラブにも所属していないでしょう? ここ桜霜学園のようなクラブ活動をやっている教育機関なんて今では凄く珍しいの」
「勿体ないと思って」と両手を広げて話す王陵に「勧誘ですか」と冷たい声で言う霜月。本音を彼女に見抜かれてしまい「バレちゃった」と笑いながら言う王陵は自分が部長を務めている美術部への勧誘をはじめた。最後に「あと霜月さん」と彼女の名を呼ぶ。
「ぼんやり考え事をすることはあるけど、別次元をみているわけじゃないから」
「宇宙人じゃあるまいしね」と可笑しそうに言いながら目を伏せて川原崎と霜月の目の前から去っていった王陵。そのあとで「美佳のバカ! 聞かれてたでしょ!!」と恥ずかしそうに言う川原崎。そんな彼女の台詞に幼馴染の霜月はウインクをしたあとで両手をパチンと合わせ「ゴメン」と返した。