第5章 狂王子の帰還
大広間の食堂。ステンドグラス越しに当たる光が神々しく、木製の床が人一人通るだけで音を鳴らす桜霜学園の食堂。女生徒の昼食中の小声での会話がこの広い空間にはよく響いていた。そんな中である一人の生徒が口を開く。
「……葛原 沙月(くずはら さつき)さん、行方不明のまま帰って来ないみたいだね……」
心配そうな声で彼女、川原崎 加賀美(かわらざき かがみ)は反対側に座っている幼馴染である友達、霜月 美佳(しもつき みか)に話しかける。
「教員たちには箝口令が敷かれてる。生徒たちを不安がらせないようにって」
落ち着きのある、冷静さを保った声でそう言う。
「何でそんな……余計不安になるじゃない……」
霜月の言葉に少々荒らげた声で喋る河原崎。
「この学校ってさ、つまりは多感な思春期の少女を社会から隔離して、PSYCHO-PASSを曇らせないよう温室栽培する……ってのがウリなのよ」
霜月は続けて「だから臭い物には蓋をする」と先刻から不安そうにしている川原崎に手振りをしてそう言い「保護者相手の体面もあるしね」と付け加える。「やだ……怖いよ……」と彼女の言葉に対して一段と不安を募らせる川原崎に「怖い噂だけならもっとあるよ?」と霜月。
「昔この学校にいた先生の一人に実は———」
と、彼女がそこまで言ったところで食堂全体から歓声の声らしきものが聞こえてきたので二人でどうしたんだろうとその音源のする入り口付近に目をやった。