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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第5章 狂王子の帰還




 執行官宿舎のとある一室。その部屋からはこの時代には珍しく、料理をしている音が聞こえる。バーカウンターの調理スペースでフライパンを片手に、フライ返しをもう片方に持って、食べやすい大きさに切られた野菜たちを炒めている料理人は、———縢だ。縢の部屋は、今はもう見かけることが少なくなった大型の業務用ゲーム機が数多く置かれていた。
 この一室には縢一人だけじゃなくもう一人、来客者の常守朱が居た。常守は、置かれたアーケードゲームやピンボールマシンを少しいじっては次のゲーム台、また次のゲームへと移動を繰り返していた。ゲームバーのようになっているこの空間が彼女には大分珍しいのか、落ち着きがなかった。そんな中、常守は口を開く。

「……縢くん、料理できるんだ」
 彼女が言っていることは別段と可笑しい事ではない。現在日本では99%、ハイパーオーツという極めて高い収穫効率を持つ遺伝子組み換えの麦から作られた合成加工食品が食卓にならんでいて、人々はそれを毎日食している。人々は完全にそのハイパーオーツ1つに頼る食文化となっていた。今時自炊する人は珍しく、そもそも生野菜生魚生肉などの本物の材料を手に入れることは極めて困難であるため発想として無いのだ。
 常守の言葉に対して「オートサーバーの飯なんかと一緒にすんなよ?」と言う縢の台詞はどこか楽しそうであった。手際の良さや雰囲気からして料理が好きであることはすぐに分かるだろう。

「でもさー、何でデータベースで調べないわけ? 監視官なら権限あるっしょ」
 縢は料理をしながら言う。常守は先日宜野座から送られてきたあの資料の内容が気になっていた。
「ファイル閲覧したら履歴が残るし……狡噛さんにバレちゃうじゃない」
 弱々しい声でそう言う常守はアーケードゲームを操作しながらそう言う。
「バレちゃマズイわけ? つぅかそんなにコウちゃんのことが気掛かりなのかい?」
 確かに、縢の言う通りだ。そんな些細なことを気にして見ないのは何故か……。縢は常守の方を見て口角を上げて「それって恋?」とはっきり言う。瞬間、「あははははっ」と常守がお腹を抱えて笑う声が部屋中に響いた。
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