第5章 狂王子の帰還
———私立桜霜(おうそう)学園。
生徒は女子しかいないこの学園。そんな学園のとあるクラスでは文学の授業が行われていた。三十人ほどいる生徒が間隔をあけて授業を受けている。今は音読をしているようで、一人の生徒が立って教科書の文を読んでいた。二文三文、生徒が読んだところで「そこまで」と教師が言う。
「文学探偵とも呼ばれたレズリー・ホットスン博士によれば、『十二夜』の初演は1601年1月6日。日本では関ヶ原の合戦があったその翌年」
どうやら今、彼女たちはイギリスの劇作家であるウィリアム・シェイクスピアの喜劇『十二夜』を勉強しているようだ。髪を一つにまとめて眼鏡をかけている教師はさらにこう付け足す。
「今、加賀美さんに読んでもらったのはシェイクスピアの驚くべき普遍性が垣間見える文章です。彼は後に——」
教師の説明をよそに、授業を受けているある一人の生徒がノート代わりに使っているタブレットをスクロールし、メッセージ受信欄にある新着ダイレクトメッセージに反応した。
『そっちは文学の授業?』
画面には、王陵璃華子という名前が見える。どうやら彼女からのメッセージらしい。その文面を見た彼女、両サイドに髪を束ねている彼女はよほど嬉しかったのか、頬を赤く染め指を動かしてメッセージを返す。
『はい。シェイクスピアの「十二夜」です。』
学年は自分より上なのだろうか、彼女は敬語でメッセージを返した。
『シェイクスピアの喜劇は退屈ね。』
すぐさま返信が送られてくる。
『お嫌いですか?』
『悲劇は好きよ。特に「マクベス」と「タイタス・アンドロニカス」』
『その二本が面白いんですね。』
『ただ面白いだけじゃない。』
王陵と表記されたアカウントから続けてこう文字が打たれる。
『特別に、残酷なの。』
———I love you.
彼女は声を発さずに口を動かして、両手を重ねて胸元に置いた。