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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第4章 はじまりは唐突で不確実に幕が上がる


 狡噛を理解するということは彼のようにモノを見て彼のように考えるということ。それができた暁には常守のPSYCHO-PASSは狡噛と同じ数字になることだろう。
 ——そんなことを征陸は言う。それから彼は『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』とニーチェの格言を言う。

「狡噛は闇を見つめ過ぎた。そして今でもまだ見つめ続けている。狡噛にとって世界でたった一つの正義というやつはその闇の奥底にしかないのだろう」
 征陸はそんなことを右手のペインティングナイフをすっ、とキャンバスに滑らせて言い放つ。「そんなものをお嬢ちゃんも狡噛と一緒に探したいと思っているのなら俺にはもう何も言えない、俺はあんたを止められないよ」という征陸の台詞は重かった。
 コウの時もそうだった……と呟く征陸に「それって……」と問う常守だったがピピピピッ、という自分自身の左手首についてる端末の機械音に制止を受けた。

「事件かい?」
「みたいです……」
「俺と六合塚は非番なんでな。狡噛と縢で頼むぜ」
 征陸と会話した後常守は部屋にある階段を登って入り口からこの部屋を出て行く。



 常守が部屋から出て行き一人になった部屋で征陸は一人、呟く。


「……それだけじゃねえんだよなあいつは。………いつ帰って来るんだろうな、亜希は」
 と、先ほどのナイフをすっと動かした。
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