第11章 間章 -Interlude-
日付が変わる。
静かな電子音が、零時を知らせた。
槙島は時計を見る。
また一つ、歳を重ねたらしい。
それ自体には何の感慨もなかった。
生まれた日というだけのことだ。
――けれど。
『そういえば明日は、しょーちゃんの誕生日ね』
亜希の声が頭に浮かんだ。
自分ですら特別だと思っていない日を、彼女は覚えていた。
明日になれば、彼女はヴァイオリンを弾くと言った。
それが何故なのかは分からない。
ただ、少しだけ待ち遠しいと思った。
「……おめでとう」
不意に声がした。
槙島は顔を上げる。
亜希は眠ったままだった。
「しょーちゃん……お誕生日、おめでとう……」
寝言だった。
槙島はしばらく何も言わず、眠る亜希を見つめていた。
やがて、小さく息を漏らして笑う。
「ありがとう、亜希」
当然、その言葉を彼女は聞いていない。
それでも構わなかった。
槙島はソファへ戻り、読みかけの本を開いた。
ページをめくる。
亜希の寝息が聞こえる。
それだけの、静かな夜だった。