第11章 間章 -Interlude-
――翌日。
約束通り、亜希は久しぶりにヴァイオリンケースを開いた。
最初の一音は、少しだけ震えていた。
長い間触れていなかった弦を確かめるように、ゆっくりと弓を滑らせる。
やがて、その音は一つの旋律になった。
昔、幼い亜希が何となく口ずさみ、何となくヴァイオリンで奏でた、小さなメロディー。
それを初めて褒めた人がいた。
だから亜希は、その曲が好きだった。
「どう?」
演奏を終えた亜希が、少し照れくさそうに尋ねる。
槙島はしばらく答えなかった。
「……しょーちゃん?」
「ああ」
槙島は微笑んだ。
「やっぱり、僕は亜希の音が好きだよ」
「……そ」
亜希は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「誕生日、おめでとう。しょーちゃん」
「ありがとう、亜希」
その日、槙島聖護は彼女の演奏を最後まで聴いた。