第11章 間章 -Interlude-
亜希は手元の問題集を見る。
消しゴムで何度も擦った跡が残っていた。
「……いたなら声かけてよ」
「集中していたからね」
「人の家に勝手に入っておいて?」
「鍵は開いていたよ」
「そういう問題じゃないでしょう」
言い返してみたところで、彼は悪びれもしない。
こんなやり取りも、今では珍しくなくなっていた。
両親が家を空けることの多いこの家へ、槙島は時折ふらりと現れる。
約束をして訪れることもあれば、今日のように気づいたらいることもある。
初めの頃こそ驚いたが、最近では玄関に見慣れた靴を見つけても、また来ているのかと思うだけになった。
槙島が本を読む。
亜希が勉強をする。
時々、どちらからともなく話しかける。
会話が途切れれば、それぞれの時間に戻る。
そんな過ごし方が、いつの間にか当たり前になっていた。
「ねえ」
「何だい?」
「何か欲しいものはある?」
槙島が本から顔を上げた。
「僕に?」
「他に誰がいるのよ。明日、誕生日なんでしょう?」
「ああ」
「何かないの?」
「特には」
「本とか」
「自分で買えるよ」
「服」
「間に合っているよ」
「食べたいものは?」
「それも特には」
「……つまらない人ね」
「随分な言われようだな」
くすりと槙島が笑う。
亜希は頬杖をついた。
「せっかく聞いてるのに」
「誕生日だからといって、必ず何かを貰わなくてはいけないわけでもないだろう?」
「そうだけど……」
納得がいかない。
亜希が唇を尖らせていると、槙島はしばらく彼女を眺めていた。
「それなら、亜希」
「何?」
「君のヴァイオリンが聴きたいな」